心を揺さぶる色彩

心を揺さぶる色彩

フィレンツェから目が眩むほど美しい発色のロンバルディア・タンが入荷した。
鼻腔を突く華やかな香りと情熱的な色彩に、心奪われる。
  


Editor / Shota Kato Photo / Nozomu Toyoshima Design & Text / NEGRONI  



ロンバルディア・タンの表情は、革によってまこと様々だ。ダキ周りに時に荒々しいシボを見せていたかと思いきや、背筋ではうっすらとスムースな表情を見せる。そしてこの目を見張る鮮烈な発色は、植物タンニン革とは思えないほど正直で大胆だ。
どこを切り取っても愛おしく思えてしまうところがこの革の魔性である。 


TANNERY  LO STIVALE

  

革の製造技術はこの50年で様々な加工表現を可能にしました。
しかし、この革新によって文化的に失われたものも少なくはありませんでした。 


1960年代以降に急激に発展した靴産業が革素材に求めた品質の条件は、大量生産においても安定した発色とブレのない品質を持ち、優れた耐摩耗性を有していることでした。大量のプロダクションを短いサイクルで収めるためにはロスの少ない素材であることが必要不可欠です。ファッションブランドが革に求める条件は時代とともに厳しさを増し、タナリーはそれに伴い製法の在り方を模索していきました。


製法の変化は“伝統的な植物タンニン鞣技術との決別” を意味しました。染色ピットを使用した昔ながらの植物鞣技法は、独特な味わいがありますが発色が不安定で、あまりに時間がかかり過ぎてしまいます。世界中のほとんどのタナリーは必然的に化学薬品のクロムを利用した鞣加工へと移行しました。この変化によって、クリエイターは自分好みの質感に加工することができるレザーを手にすることができました。もちろん、この革新によって多くの優れたプロダクトが生まれたのですから、この進歩は批判されるものでは決してありません。

しかしながら、技術の革新によってもたらされた商品の質感はまるでソフトウェアによる画像補正のようでもあります。動物的な表情は人工的な加工によって“革らしく”表現することができます。表面はシェイブされ、傷が見えにくいように顔料で塗り固め、発色は自在にコントロールすることができるようになりました。“革らしい” シボ型が押され、あたかも自然な仕上がりのようにも見えます。もちろん素材自体は革であることに変わりはありませんが、レザー本来の表情の豊かさを愛する文化や、素材の本質を感じ取るための感性は、昔ながらの製法とともに失われつつあるように思えます。
 
 


果たしてレザー本来の魅力とはなんだったのか。
 
忘れかけてしまいそうな真理を、このロンバルディア・タンは眩いほどの強烈な色彩を以て、私たちに突きつけます。イタリア・サンタクローチェの名門「ロ・スティヴァレ」は伝統的な古代トスカーナの植物タンニン鞣技法を伝える数少ないタナリーのひとつです。「テンペスティ」「バ・ダラッシ」と並び、御三家の一角と称されています。

ロンバルディア・タンの表面には染色後のウォッシュによって表れた縦横無尽にシボや血筋が走っています。その表情には生物本来の野性的な荒々しさを色濃く残し、大胆な発色は目が眩むほどです。そして革を広げた瞬間から香る植物的なタンニンのノートは科学的な要素を決して感じさせないナチュラルな魅力で満ち溢れています。しかしながら、雰囲気は決して懐古的ではなく洗練されていて、まさに現代のクリエイティブに耐えうる圧倒的な存在感を放っています。

 

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私たちは忘れていたわけではありません。
革の魅力は誰もがプリミティブ(原始的)な感性によって理解することができるのです。