昼過ぎ、友人を空港に送り届けると、不意に時間ができた。
阿古港の受付に貼られていたポスターの写真を頼りに、灯台を探してみることにした。借りられたのは、濃紺のサンバーだけだった。三宅島も東京都だから、ナンバーは品川。走行距離はすでに20万キロを優に超えている。ブレーキを踏んでみる。それなりにやれた感触はあるが、まだまだ走れそうだ。写真を撮るなら、これくらい小さくて、すぐ脇道へ入れるクルマの方が都合がいい。
三宅島には、東西に二つの灯台があるらしい。ただし、島を一周する道路から、その姿を見ることは難しいという。受付の写真に写っていたのは、どちらの灯台なのか。日があるうちに見つけられるだろうか。
島内では、スマートフォンの電波がしばしば途切れる。普段はナビに頼り切っているから、現在地が表示されなくなっただけで、急に手掛かりがなくなる。現代病ってやつだ。
道路標識と地図を頼りに、自分で探すしかなさそうだ。
走り始めてすぐに、自分の車を島へ持ってくればよかったと後悔した。
ひたすら続くアップダウン。不意に現れるヘアピンカーブ。思いのほか長いストレート。そして、海と剥き出しの岩肌が続く景色。周囲を走っている車はしばらく一台もない。
空港を過ぎてから、電波はずっとつながらない。けれど、情報から遮断されていく孤独感も悪くなかった。島全体が、まるで一つの大きな峠のようだ。MTのスポーツカーを走らせるのに、これほど似合う外周道路がほかにあるだろうか。
上り坂に差しかかると、サンバーのエンジンが轟々とうなった。
「ガンバレ、ガンバレ」
そう声をかけながら、また次の坂へと抜けていく。
贅沢は言っていられない。
三池港を過ぎ、サタドー岬のあたりを走っていると、岩壁の突端に小さな灯台がかすかに見えた。
あれか。
しかし、見えたのは一瞬だった。通り過ぎると、灯台への入口を示す案内はどこにもない。青看板を頼りに岬への道を探したが、一向に見つからない。見落としたのだろうか。一度通り過ぎ、もう一度戻る。
速度を落として辺りを見ていると、木々の影になった暗い隙間に、切り株のような岬の看板とともに、細い道がのぞいていた。
サタドー岬の灯台は、受付の写真に写っていた灯台ではなかった。ただ、海沿いの岩場を登ると、足がすくむような高さから、美しい海を見下ろすことができた。
振り返ると、島の中央にある雄山の切れ目から、湯気のようなものが立ち昇り、そのまま雲につながっていた。三宅島が火山から生まれた島であることを、景色の方からもう一度思い出させられる。
外は茹だるような暑さだった。聞き慣れない蝉の声が心地いい。サンバーの冷房を全開にして、次の灯台へと走る。
鬱蒼と茂る木々の間を抜けると、海岸線の道が目の前に現れた。
小高い丘から海へ滑り降りるように、緩やかなワインディングが続いていく。島を走ったなかで、おそらくここが一番美しい道だったと思う。
その先に、もう一つの灯台、伊豆岬灯台が現れた。
昨年の改修で真っ白に塗り直された灯台は、明治からここに立っているとは思えないほど美しかった。
阿古港の受付に貼られていた写真に写っていたのは、この灯台だった。灯台を一つ探すだけのつもりが、気づけば島をほとんど一周していた。
次に三宅島へ来るときは、もう灯台を探す必要はない。
その代わり、自分の車でこの道をもう一度走ってみたい。
PHOTOGRAPHS & TEXT
SHUHEI MIYABE / NEGRONI




